95話のあらすじ&感想記事です。
別マガ2017年8月号掲載。単行本派の方はネタバレご容赦ください。
- ライナーの視点がメインの回
- パラディに行く直前のライナーの回想が描かれる
- ストーリー的には大きな進展はない
~続く~

ライナーが完全にマーレ側の主人公という雰囲気です。諫山先生の一番好きなキャラクターがライナーだったので、その影響もあるのかもしれませんね。
あらすじ
ガビと共にマーケットを歩くライナー。住民からは挨拶をかけられるほどの人気っぷり。二人が向かった先はエルディア隔離地区とマーレを隔てるゲートであった。ライナーとガビは身分証らしきものを門番兵に見せ、隔離区から出た。
「どうしたガビ。元気がないな」
「変なのはライナーだよ。何か嘘をついてる」
「・・・嘘?何のことだ?」
「何のことか私にはわからないけどカリナおばさんにはわかるみたいだったよ?ライナーが島から一人だけ帰ってきて・・・別人みたいになったって・・・おばさんすごく心配してたよ?」
「はは・・・12歳だった息子がおっさんになって帰って来ればさぞかし心配させただろうな」
「・・・いつか本当のことを話してね。血のつながりは『九つの巨人』の記憶の継承に強く影響するって巨人学会の人が言ってたよね?」
「・・・あぁ」
「私が鎧を継承すればライナーは私の中できっと・・・生き続ける。人に言えない辛いことも二人でわかりあえるよ。大丈夫。きっと二人で力を合わせればエルディアの未来は切り開けるから」
「・・・そうだな」
一方、戦士候補生の若者たちは訓練場にて。
「しかしこんな早く召集されるなんてな
「お前らそんなこと言ってると次の戦士候補生に抜かれちまうぞ」
「気合入ってんなファルコ」
「まぁな。(ガビを守りたいなら俺がガビを超えるしかない) 鎧の巨人を継承するのは俺だ」
ガビがファルコに頭突きをかまして強く言う。
「やってみろ」
「おう・・・」
「全員揃ったな」
密室に集う巨人の力を継承するものたち。
「珍しいですね。戦士長の部屋に集合なんて。マーレ軍の人は?」
「この部屋にはいない。お茶してもたまにはいいだろ」
「・・・はぁ」
ポッコも不思議そうにしている。
「早速だがまずい状況だ。この数年でマーレは資源争奪戦の時代を勝ち抜き、反発する国々を俺たちの巨人で黙らせてきた。それによって世界のエルディアに対する憎悪は、帝国時代を彷彿させるほどに膨らんでいる。俺たちは歴史への反省を示すべくマーレに尽くした。それは間違ってない。だが・・・世界からは一層エルディア人の根絶を願う声が高まった。それに加え、先の戦いで通常兵器が巨人兵器を上回る未来がより明確に知れ渡った。つまりエルディア人は近い将来に必ず戦術的価値を失う。そうなればマーレは国力を維持できなくなる。マーレが弱ればエルディアと世界を隔てる壁はなくなり、エルディア人はより生存権を脅かされる立場になるだろう。世界はもうエルディア人を人権の定義に当てはめる必要はないと言っている・・・これは民族存亡の危機だ」
「・・・何か解決策はないんですか?」
とコルト。
「唯一の解決策はこれまでどおり、早急に『始祖の巨人』とパラディ島の資源をマーレに治め、マーレの国力を安定させると同時に世界を脅かすパラディ島の脅威を我々の手で解決することだ」
「しかし・・・今となっては『始祖奪還計画』が成功しても、エルディアに対する世界の歴史感情を清算するには至らないほど悪化してると思いますが・・・」
「さすがピークちゃん。その通りだよ。大事なのはストーリーだ。始祖奪還までの筋書きを用意するんだ。まずは改めてあの島がいかに世界にとって脅威であるかを強く世界に知らしめなければならない。物語には語り手が必要だ。それをタイバー家が引き受けてくれるそうだ。『戦槌の巨人』を管理するタイバー家の一族がね」
「タイバー家が?」
「そうだ。100年前の巨人大戦でフリッツ王に反旗を掲げた最初の貴族家であるタイバー家だ。彼らは名誉マーレ人として政治にも戦争にも不干渉の立場だったが、このマーレとエルディアの未来を案じて立ち上がってくれたんだ」
「確かにタイバー家は一度も巨人の力を敵国に向けたことがない。何より巨人大戦でフリッツ王を退けた一族として諸外国に顔が利く。タイバー家を通せば世界は耳を傾けざるを得ないでしょう」
「さすがピークちゃんだ。まったくその通りだよ」
「しかし・・・タイバー家は今まで『戦槌の巨人』を持っていながら国を守る務めを果たさず、他のエルディア人が収容区で暮らす中、広い土地の広い屋敷で優雅に暮らしてきた。それが・・・今更表に出て来て英雄を気取るなんて。少し・・・虫が良すぎる話じゃありませんか?」
「・・・気持ちはわかるがタイバー家も祖国マーレを憂いているんだ」
「しかし俺たちは――」
「これで祖国マーレが救われるならありがたいことです。俺たち戦士隊もタイバー家とともに協力して英雄国マーレの復活の礎となりましょう」
ライナーがポッコを遮って話す。
「・・・そうだ。近くこのレベリオで祭事が行われる」
「祭事・・・?」
「諸外国の要人や記者を招いてタイバー家は宣言を行う。一年以内にパラディ島を制圧すると。エルディア人とマーレの運命はこの作戦にかかっている。もう・・・失敗は許されない。エルディア人と祖国マーレの未来のために今一度皆の心を一つにしよう」
――今までの会話を別室で盗聴しているマガト含めるマーレ人ら。
「ガリアードは多少不満があるようだが、まぁ・・・任務となれば徹底するやつだ」
「密室でこの会話内容なら問題ないだろう」
「ジークの余計な一言がなければな・・・」
ライナーは背後に置いてある蓄音機を見て思う。
(この部屋にはいない・・・か。大きな作戦の前には必ず思想調査が行われる。あの頃から変わらないやり方だ。俺はまた・・・あの島に行くのか・・・)
遠い過去のことが蘇る。パラディに行く前、巨人の力を継承した直後のこと。
「素晴らしい。こいつは予想以上の仕上がりだ。『女型の巨人』、こいつはなんでもできる汎用性が強味だ。高い機動力と持続力に加え、硬質化を交えたレオンハートの打撃技は凄まじい破壊力だ。範囲は狭いが『無垢の巨人』を呼び寄せることができる」
「『鎧の巨人』は見ての通り、硬質化に特化した巨人だ。あの全身で体当たりすれば壁の扉も破壊できるだろう。マーレの盾となり攻撃を引き受ける巨人にはまぁ・・・我慢強いブラウンが合っている」
「『顎の巨人』は強襲型だ。小振りな分もっともすばやく、強力な爪と顎で大抵の物は砕ける。機転の利くマルセルに託した」
「『獣の巨人』は相変わらずだ。他よりは多少でかいってだけの巨人がまさか・・・投球技術でここまで恐ろしい兵器になっちまうとはな・・・何より奴の血には秘めた力がある・・・『驚異の子』の奇跡だ」
「『車力の巨人』は他とは並外れた持続力で長期間の任務に対応できる。それにより用途に合わせた兵装が可能で作戦の幅が広がる。判断力のあるピークで間違いないだろう」
「そして『超大型巨人』。破壊の神だ」
「島の悪魔どもに同情しちまうよ。ある日突然あれが殺しにやってくるんだからな」
「確かに新設の戦士隊は先代より能力が上だ。幼子から鍛えただけのことはある。だが軍の決定には疑問だ。4人の子供に始祖奪還計画を託すなど・・・俺には正気と思えん」
「そうか?たった今その子供達が国を一つ踏み潰して見せたじゃないか」
――作戦会議にて、若い選ばれし戦士たちがマガトから作戦を聞く。
「獣と車力は敵国ににらみをきかせるため本国に必要だ。本作戦には参加しない。よって始祖奪還作戦は顎、鎧、超大型、女型で決行する。マルセル、ベルトルト、アニ、ライナー任せたぞ」
その背後に戦士に選ばれなかったポッコの暗い姿。
「おかしいだろ!!何でどべのお前が選ばれるんだ!?どんな手を使いやがった!?」
「ドベはお前だった。それだけだろ?ポッコ」
「てめぇええええ」
激昂するポルコにマルセルが止めに入る。
「ポルコ。お前軍の決定に逆らうのか?」
「う・・・」
「ライナー・・・すまない」
マルセルがライナーに謝る。
「?」
パラディ島に出発するライナー、マルセル、アニ、ベルトルトが市民に見送られて凱旋。ライナーの母も涙を浮かべて嬉しそうにライナーを見つめる。そんな中、ライナーは市民たちの中に父親が紛れているのがちらっと見える。少し前の父とのやりとりを思い出すライナー。
「父さん・・・」
ゆっくりと振り返る父親。
「・・・そうなんでしょ?母さんは僕が産まれる前この兵舎で働いてた。そこで母さんと・・・カリナ・ブラウンと出会った・・・顔を見かけて・・・もしかしたらって・・・ほら見てよ・・・僕と母さんは名誉マーレ人になったんだ。申告すれば塀の外を自由に出歩くこともできる。父さんと母さんと一緒に暮らすことだって――」
「ふざけるな!!あの女に言われて来たんだろ!!俺に復讐するために!!くそっ!!よりによってガキを戦士にさせるなんて!!お前の出自が詳しく調べられたら俺の一家はおしまいだ!!俺を縛り首にしてぇんだろ!?俺は逃げ切ってやるからな!!お前らエルディアの悪魔の親子から!!」
去っていく父。
「待ってよ・・・」
「――ライナー。大丈夫かい?」
「あ・・・そうか。もう出発の日か・・・」
港。パラディに向かうための船が見えている。母に言われてはっとするライナー。
「お前なら必ず任務を果たせるよ。きっと父さんもお前の成功を祈ってくれているから」
ライナーは父のことは何も答えれずにいた。父が自分たちに抱いている思いを語らず、そっと胸にしまう。
「・・・うん」
そして船は出発した。
「わがエルディアの選ばれし戦士たちよ!!島の悪魔からみんなを救ってくれ!!」
民衆から期待の声を背負って、彼らは出航した。
(そうだ・・・父なんかいなくても俺は「鎧の巨人」を託された選ばれた戦士。島の悪魔からみんなを救い、世界の英雄になるんだ)
「ここが楽園の境界線。日没後、北に向かい進行しろ。後は作戦通りに動け。マーレ軍は望月の日、ここに停泊する。始祖奪還はそれに合わせて進行しろ」
「了解です!!」
「では・・・任務を果たし始祖と共に全員・・・帰ってこい」
夜のパラディを進む一行。途中で焚き火をとる。
「やっぱり夜道はあまり進めなかったな」
「雲が出てきたから仕方ない」
「巨人に遭遇しなくて良かった・・・本当に壁を破壊しても壁の王は『始祖の巨人』を行使しないのかな・・・」
「今更何言ってんだベルトルト!マーレの研究結果を信じろよ!」
「・・・そうだ。後戻りはできない・・・明日俺たちは壁を・・・」
「・・・?何だよ?まさか島の悪魔を殺すことをためらっているのか?連中が俺たちとマーレに何をやったか忘れたのか?かつて世界を蹂躙して地獄を作った悪魔の末裔だぞ?今だって世界を脅かしているんだ」
ライナーには躊躇いがないがマルセルには迷いが見える。
「俺たちは世界を代表して悪魔を裁くべく選ばれた戦士なんだから」
「・・・ライナーすまない」
「え?」
「本当は・・・お前は戦士に選ばれるはずじゃなかったのに・・・俺がお前を持ち上げたり弟を貶めたりして・・・軍に印象操作した」
「は?」
「俺は・・・弟を守りたかった・・・ライナーすまない」
「なんで あやまるんだよ・・・」
日が昇る。周囲の音は何も聞こえなかった。父と母を一緒にするという夢は砕かれ、残ったのはマーレに選ばれたという誇りだったが、それも仮初なのかもしれないということがライナーに迷いを生じさせていた。
(俺は――「鎧の巨人」を祖国マーレに託された選ばれし戦士)
後ろから巨人が襲い掛かるも気付かないライナー。マルセルがライナーを突き飛ばす。代わりにマルセルが巨人に食べられてしまう。
(島の悪魔を成敗し、みんなを救う英雄になるんだ)
食われるマルセルを尻目に走ってライナーたちは逃げ出す。
続く
考察・感想編は別記事として出してます。解説や感想、予想などにご興味がある方、更なる分析をご希望の方はぜひそちらもお越しください。
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95話 分析【考察・解説】編
一般的な格闘向けの巨人のサイズのようですね。
進撃の巨人の関連情報は随時紹介します。乞うご期待!