88話のあらすじ&感想記事です。
別マガ2017年1月号掲載。単行本派の方はネタバレご容赦ください。
- 今回もグリシャとクルーガーが語り合う展開。座標や巨人の秘密などが明らかに
- クルーガーの正体。グリシャの今後の行動の理由
- 巨人、継承後は13年で寿命に至ることが発覚
- ついにタイトル「進撃の巨人」の意味回収
- エレンの名前の由来
- 進撃の世界では太陽の昇る方向は「西から東」
~続く~

今回も説明回で文章量多めです。エレン・クルーガーはどうみてもエレンが順調に育っていった場合の顔にそっくりですが、名前も同じということは意図的なものだったのでしょう。
あらすじ
――巨人となったフクロウは蒸気船を粉々に破壊し、マーレ当局の兵士はみな絞りかすのようになって海へ捨てられた。
「海」、「海」とは地表の七割を占める広大な塩水である。
我々を搬送したマーレ当局の蒸気船・兵士の持ち物――彼らがこの島に存在した全ての痕跡は海に飲み込まれた。
変身が解けたクルーガーはグリシャの縄をナイフで斬る。鼻から血を流しており、とてもしんどそうに見える。グリシャは複雑で困惑した表情を浮かべていた。
「何か聞きたいことは無いのか?」
「・・・分からない。何から聞けばいいのか」
「悪いが時間はそんなに残されてない」
「・・・フクロウ・・・あんたは何者だ」
「俺はエレン・クルーガー。今見せた『九つの巨人』の一つをこの身に宿している。お前と同じ『ユミルの民』だ」
「マーレ人に成りすまして潜入したのか?血液検査はどうした!?」
「医者に協力者が一人いれば済む話だ。その医者も診療録を偽造し、マーレ人に成りすましたユミルの民だ」
「医者は諜報員に向いている。それなりの教養と立場があり、巨人化学の応用に必要な知識がある。実際お前はよくやってくれた。若くして復権派を導き、ダイナ・フリッツとの間に子宝を儲けた。ジークをマーレの戦士にするのも俺の後ろ盾を考慮すれば現実的な計画だった。結果こそはグライスが嘆いた通りだったがな」
「――その通りだ。俺はダメな父親で夫で男だった。なのになぜ俺だけが人の姿のままここに突っ立っているんだ・・・ダイナは・・・王家の血を引く特別だ。巨人の力の真価を引き出す。そんなこと、マーレの歴史で習うエルディア人の子供でも知ってる史実だぞ?お前がそれをもみ消したりしなければダイナは少なくともここで我を失う化け物にされずに済んだはずだ・・・答えろフクロウ!!なぜ俺だけ生かした!?」
グリシャは指がなくなった手でクルーガーに詰め寄る。血が包帯の上からにじんでいる。
「よせ。指が痛むだろう」
「お気遣い感謝するよ・・・人の指をちょん切るのは気にならないらしいがな・・・なぁ?・・・あの巨人でもっと早く暴れてくれればみんなも巨人にされずに済んだんじゃないのか?あんたは何がしたかったんだ!?俺たちエルディア復権派は何のためにここで巨人にされたんだ!?」
エレン・クルーガーは膝を落とす。
「どうしたあんた・・・さっきから顔色が」
「同胞だけじゃない・・・何千人ものユミルの民の指を切り落とした。何千人もここで巨人にしてきた女も子供だ。全てはエルディアのためだったと信じてる・・・」
「とにかく診せてくれ」
「いやこれはわかっている。字間がない。グリシャ・・・お前に最後の任務を託す。他の誰かではなくお前にだ」
二人は壁の上に並んで座り、彼方を見る。
「あの日、初めてお前と会った日、俺が呼び止めてなければお前は妹を助けられたかもしれない」
「・・・俺も殺されてた可能性のほうが高かったと思うが・・・」
「そう思ってくれるのは助かるが、いずれにしろあんなことが無ければお前はここまでマーレに強い憎しみを抱く事はなかっただろう」
「それが俺を選んだ理由か?」
「それもある。敵国、父親、自分、お前の目に映る憎悪はこの世を焼きつくさんとするばかりだった。かつては俺もそうだった。大陸に留まった王家の残党は革命軍と成り、父もその一員だった。しかし革命軍は何も成し遂げることはなくみな家族と共に生きたまま焼かれた。幼かった俺はその様子を戸棚のスキマから見ていることしか出来なかった。家が焼け崩れる頃に父の仲間に救われ、それ以来マーレへの復讐とエルディア復権を誓った。だが俺が実際にやった事は救うべき同胞の指をつめ、時には皮を剥ぎ、ここから蹴落とし巨人に変えることだ。それに徹した結果今日まで正体を暴かれることはなかった・・・俺は未だあのときのまま。戸棚のスキマから世界を見ているだけなのかもしれない・・・」
「教えてくれフクロウ・・・俺に残された任務とはなんだ?」
「これから壁内に潜入し、『始祖の巨人』を奪還しろ。俺から巨人を継承してな」
「・・・なんだって?じゃああんたは」
「巨人化したお前に食われる。巨人の力なしに壁まで辿りつくことはできない。同じようにして『始祖の巨人』の持ち主から力を奪え」
「なぜあんたがやらない?」
「お前たちに渡した情報は俺の知りうる全てではない。復権派の戦意高揚を促す目的があったからだ。『九つの巨人の力』を継承したものは十三年で死ぬ。俺が継承したのも十三年前になる。もしお前たちがそのことを知っていたらジークやダイナに始祖を継承させる計画を躊躇したはずだ」
時は現在に戻る。牢獄の一室、ベッドの上にエレンが座っており、すぐ傍の机でアルミンは筆を執る。
「フクロウはそれを『ユミルの呪い』と言っていた。十三年は始祖ユミルが力に目覚めてから死ぬまでの年月に相当する時間だと。始祖ユミルを超える力は持てない。その時が近づけば体が衰え・・・器はその役割を全うする」
「これも・・・おじさんの手記と記憶が一致したんだね。レイス家の継承期間がこの十三年を目安にしてたことからも・・・間違いないみたいだね。僕はあと十三年・・・エレンは・・・」
「残り八年・・・もないな」
「違う。これは何かの間違い・・・間違ってる・・・」
隣の牢屋からうずくまるミカサが神様にすがるように異を唱える。それはもはや願望だった。
「『九つの巨人』を宿すものが力を継承することなく死んだ場合・・・巨人の力はそれ以降に誕生するユミルの民の赤子に突如として継承される。それはどれほど距離が離れていようと関係なく、血縁の近親者に関わるものでもない。あたかも『ユミルの民』とはみな一様に見えない『何か』で繋がっていると考えざるを得ない。ある継承者は『道』を見たと言った。目には見えない道だ。巨人を形成する血や骨はその道を通り送られてくる。時には記憶や誰かの意思も同じようにして道を通ってくる。そしてその道は全て一つの座標で交わる。つまりそれが・・・『始祖の巨人』だ」
まるでエレンはクルーガーがグリシャに話すような口ぶりだった。エレンの視点は再び記憶の中のクルーガーの視点に切り替わり、グリシャを見る。
「全ての巨人・・・全てのユミルの民はその座標へと繋がっている。空間を超越した『道』でな。これはマーレ政府巨人化学研究学会最新の見解によるものだ」
グリシャが問う。
「つまり『魔法』はあると言いたいのか?さしずめ始祖ユミルの正体は魔女か?いったいなんなんだ?」
「マーレ政権下では『悪魔の使い』。エルディア帝国の時代では『神がもたらした奇跡』」
「あんたが俺たちに送った歴史書物も戦意高揚の餌か?一帯何が真実で本当の歴史なんだ?」
「始祖ユミルは『有機生物の起源』と接触した少女・・・そう唱える者もいる」
「は?」
「この世に真実など無い。それが現実だ。誰だって神でも悪魔にでもなれる。誰かがそれを真実だと言えば場な。1700年かけて民族浄化した?マーレ人は毛の一本すらこの地上に残ってないはずだ。始祖ユミルが巨人の力でもたらしたものは富たけだと?そいつは俺の知る人間って奴とはえらくかけ離れている」
「ダイナは王家の血を引く者だと言ったのもあんただ。それもあんたの真実か?・・・・・・(真実ではない)だから見捨てた」
「・・・残念なことにダイナが王家の血を引くのは『事実』だ。彼女は革命軍が唯一奪われなかったものだろう」
「ではなぜ!?」
「王家の血を引くものだからだ。敵の手に渡すべきではなかった。ジークはマーレに全てを話すだろう。それが子供のたわごとではないと奴らが気づくのは時間の問題だがな」
「それでも・・・」
「それでも?死ぬまで敵国のために子を産まされ続ける生涯のほうが良かっただろうか・・・?実際・・・人を食う化け物に変えられるのとどっちがマシか。彼女に聞いたわけじゃなかったが・・・あの最期を見る限り間違ってなかった・・・と思う・・・とはいえ他の同胞たちを救えなかったのも全ては俺のせいだ。ここから生きて壁まで辿り付けるのは一人。巨人の力を宿したもの一人だけだ。俺は務めを果たした。お前もそうしろ」
「正直に言って・・・俺に務まるとは思えない。あんたが創ったエルディア復権派は俺が壊滅させた」
「お前がやるんだ」
グリシャは壁の下の妹の命を奪った憎き仇の遺体を見やる。
「あれを見ろよ。妹を犬に食わして喜んでた奴が生きたまま食われた。俺にとってはこれ以上ない復讐が果たされた。あんたは俺に聞いた。これが面白いかって。面白くなかったよ。断末魔は聞くに堪えないおぞましさだった。あんたがあんたの部下を握りつぶしたのだって同じ感想だ。俺はただ恐ろしかった。俺は・・・何もわかっていなかった・・・仲間を失うことも家族を失うことも指を切り落とされる痛みもこれが自由の代償だとわかっていたなら払わなかった。悪いがとんだ見込み違いだ。すまない・・・俺はもう何も憎んでない・・・」
「お前の父親は賢い男だった。娘を殺されてもろくに捜査もしない当局相手にヘコヘコしてたあの父親だ。どうしたらこれ以上家族を失わずに済むか考えたんだ。お前が道を誤らないように必死だった。しかし息子は何も学ばなかったばかりか自分の妻と息子を地獄に道連れにした」
「・・・何が言いたい」
「立て。戦え。言っただろグリシャ・イェーガー。時間がない。俺にはまだお前たちに伝えなかった情報がある」
「先にそれを言うのが筋だ」
「誓いを立てるのが先だ。エルディアに自由と尊厳を取り戻すために命をとして再び戦うと誓うなら立て」
「俺はもう・・・」
クルーガーは一枚の写真を取り出す。
「見ろ。お前の家から持ってきたものだ」
「・・・見れない・・・立てない・・・戦えない・・・」
「タマもない・・・か?マーレに去勢されたか?」
「俺に憎しみを思い出させようとしても無駄だ。俺に残されたのは・・・罪だけだ」
「十分だ。お前を選んだ一番の理由はマーレを人一倍憎んでいるからじゃない。お前があの日、壁の外に出たからだ。あの日お前が妹を連れて壁の外に出ていなければお前は父親の診療所を継ぎ、ダイナとは出会えず、ジークも生まれない。大人になった妹は今頃結婚し子供を産んでいたかもしれない。だがお前は壁の外に出た。俺たちは自由を求めその代償は同胞が支払った。そのつけを払う方法はひとつ。俺はここで初めて同胞を蹴落とした日から、お前は妹を連れて壁の外に出た日から、その行いが報われる日まで進み続けるんだ」 。死んでも死んだ後も
グリシャは写真を見る。地下室の手記に入っていたグリシャ、ダイナ、ジークの家族写真。
「これはお前が始めた物語だろ」
写真を受け取ったグリシャは立ち上がる。
「『九つの巨人』にはそれぞれ名前がある。これからお前へと継承される巨人にもだ。その巨人はいついかなる時代においても自由を求めて進み続けた。自由のために戦った」
「名は進撃の巨人」
そしてグリシャは自由の翼を羽織るキースと出会う。
続く
考察・感想編は別記事として出してます。解説や感想、予想などにご興味がある方、更なる分析をご希望の方はぜひそちらもお越しください。
こちら:
88話 分析【考察・解説】編
記憶が正しければですが、太陽の昇る方角のツッコミはウトガルド編辺りからいくつか見かけたことがあります。太陽が昇る方角が「東から西」ではなく、逆の「西から東」だというのは意図した設定みたいです。ただ今後これが重要な世界設定の伏線に関わってくる感じは今のところない気がします。
進撃の巨人の関連情報は随時紹介します。乞うご期待!